上方講談の聖地 松島日の出席

明治24年に西区松島町1-25に安歌氏によって開設。明治36年下村虎之助に経営が移る。玉龍亭一山の定席であったが一山老年引退後は2代目旭堂南稜と門下により運営。明治期、大阪に講釈の席は30軒以上あったが徐々に衰退し昭和初期この日の出席が大阪唯一の講釈の席となった。3代目南陵出征の頃に閉席。空襲で周辺とともに灰燼と化した。

昭和7年9月3日 大阪朝日新聞

〇時流の責苦にもがく存在、四十年の歴史を誇るたった一つの講談席

「そんな講釈聞かんでもええわい」とか「何を講釈いふてんねん

 

そんな講釈とはひちむつかしい理屈張ったもので、ナンセンス好みの現代民衆娯楽から全く取り残され、市内に散在していた講談席も一つひとつ、暁の星の様に姿を消して、大阪のみならず関西地方で残された唯一の講談席大阪松島1丁目日の出席がただ一つ創立40年の歴史をもつて今日まで貴重な骨董的地位を維持してきたが、行き詰った状況と民衆娯楽としての興味の標準の変化によって経営がいよいよ苦しくなり、定員160名の席に昨今は20名内外より客が入らず、8月31日ごときは遂に臨時休業をして、座主2代目下村市五郎さんは頭取および講談師玉龍亭一山、玉田玉芳斎らを集めて経営方針について協議した。しかし下村さんはどう考へても先代が築き上げた一身代を傾倒してまで今日までもちこたへたのに、全くこれを閉鎖してしまふのはしのびないと考へ直した結果、いま一踏ん張りやることになつた。 以下略


松島日の出席の演者

記録の残されている演者は玉田玉芳斎、玉龍亭一山、太年社燕楽、西尾廬山、玉龍亭海山、旭堂南陵(2代目)、旭堂南海(後の三代目南陵)、旭堂南鶴、旭堂南右など。三代目南陵はこの席が初舞台。

日の出席の玉龍亭一山
日の出席の玉龍亭一山

もともとこの玉龍亭一山がひとりで口演していたが老年引退、その後高座は旭堂に引き継がれた。

2代目旭堂南陵「私が十七歳の時講釈師の門に入り、机を叩き始めましたのが、此処のこの机です。

明治37年大阪講談師大見立(左下 席一覧に日の出席)
明治37年大阪講談師大見立(左下 席一覧に日の出席)


松島日の出席の場所

大阪市西区松島町1ー25、西区役所調べによると現在の住所は西区千代崎1-21。当時、路地は1間巾程度と思われますので現在の道路も日の出席の一部であったと考えられます。(空襲で周辺はまる焼け、その後の再開発で5m道路になっています。)

 

昭和12年「上方」によると「講釈場は六七軒離れて並んでいるこの二つの江州音頭小屋に近い路地を東にはいった現在の位置だった、千代崎橋西詰の電車道へ出る抜け路地で、溝板を踏んで渡る薄汚なさで女郎屋の引子や紹介業者や女髪結などが住んでいた席の前の赤煉瓦の防火壁も既にあった。」と記載されています。

①地下鉄九条駅からナインモール商店街を通り抜け九条新道信号を渡りさらに直進。(スーパー玉出前を千代崎橋方面へ)

②千代崎橋西交差点を左折

③近畿産業信用組合を過ぎると左折。

④この右手が日の出席でした。

立体地図、千代崎橋が架かっているのは木津川、千代崎橋所で合流している川は堀江川(埋め立てられています)

 


日之出席の間取り

 

三代目旭堂南陵が語る日の出席

-定席の日の出席は、どの程度の席だったんですか?ー

南陵 講釈の席としてはね、おっきい方ですよ。百人ぐらい、ゆうゆうと入りましたからね。書きますわ。(上図)ここに座っているんです。オヤジ(席主)の下村の虎ヤンが。ここ、入口です。で、講釈のじゃまにならないような低い声で、「まあおはいり」言うてね。(この声色、オアイリともオワイとも聞こえる)落語の「くしゃみ講釈」と」いっしょなんですわ。ここに、講釈の先生の楽屋があって・・・席主のおるのと一緒なんです。入口からちょっと首のばしたらやってるのが見える。で、ここに講釈席の高座があるのです。こう、風呂屋の番台みたいに高なってるんです。お客さんはこっち、タタキのここに下駄おいて、自分でかってに脱いでね、ここに座り込むんです。

-畳でも敷いてあるんですか?ー

南陵 ここ、畳です。夏になると、竹のネ敷いて。めったに腐らへんし、痛まへんからね。ここに水屋がありまして・・・で、奥に便所。水屋も便所もいっしょくたになってる。

 

ー男女兼用ですか?ー

南陵 ひとつあるだけですから・・・、。百人も毎日入るなら二つこしらえならんけど・・・。ソク入ったらびっくりするんです。ソク言うたら百ですけど。まあ七十入ると蔵が建ついいましてね。よう入って、ふつうは二十、」三十人です。

ここに釜があってお茶わかして、で、おばはんが「お茶よろしいか」いうてね。

ー客席へ売りに行くわけですね。ー

南陵 一席と一席の間に、「お客が「おかき茶」食べて・・・。あれ、本物のおかき茶でおいしいんですよ。割り箸が一本ついてて、ふつう二杯くらい食べよる。

 

楽屋でも講釈の先生がここに座ってるからね。こっからトッカトッカトッカと、下駄やら雪駄やら履いて、で、ここに座り込んでしゃべるわけです。机はね、講釈の机は、前に彫刻があって、こっちに引き出しがある。この引き出しの中に、本なんか入れてある。こっちに座布団ですね。